歯に痛みを感じたら、むし歯かもしれないと考える人は多いのではないでしょうか。むし歯は少しずつ時間をかけて歯を侵食していくため、初期の頃は自覚症状がない人がほとんどです。気づいた時にはすでに歯に穴ができていたというケースも多々あります。このページではむし歯治療について解説します。
むし歯はある日突然あらわれる症状ではありません。口の中にあるむし歯の原因菌が歯に付着して歯垢を形成します。歯垢を形成した原因菌は、歯の隙間などに残る食べ物の糖分を栄養として酸を発生させ、その酸が歯を溶かすことでむし歯になります。 酸を発生する歯垢をそのままにしておくと、発生した酸が歯を溶かし続けてしまうので、歯垢が残らないように入念に日々のケアをおこない、定期的に歯科医院で診療を受けて歯垢を落とすなど、歯垢を口の中で放置しないことが大切です。 歯に歯垢が付くと表面のツヤが失われ、歯の色が濁って見えるようになります。そのまま放置すると歯の表面のエナメル質に穴が開くことがありますが、痛みなどはありません。この時点で発見できれば、少し削るだけで麻酔もせず治療できます。しかし、エナメル質を侵食し象牙質まで到達すると、痛みが発生し、詰め物などの治療が必要です。また、侵食が神経まで到達すると、根管治療という本格的な治療をしなくてはなりません。
むし歯治療の代表的な方法にCADCAM冠があります。CADCAM冠は保険適用が可能な歯科治療で、3Dカメラで患者の歯形模型をスキャンし、コンピューターでデザイン・製作されたむし歯専用の白くて固い被せ物を使う治療方法です。 CADCAM冠が初めて保険適用されたときは、治療の対象は一部の歯のみでしたが、令和2年4月からは、真ん中から奥歯へ向かって4・5・6番目までの歯の治療まで適用範囲が拡大されました。さらに、令和2年9月の制度改正が実施されたことで、それ以降はほぼ全ての歯でCADCAM冠の治療が保険適用となりました。 CADCAM冠がほぼ全ての歯で保険適用されたことにより、銀歯を使うことなく白い歯を手に入れることができるようになったのです。欠けた歯や穴の開いた歯を白く美しく治療するには高額なセラミック治療が必要でしたが、CADCAM冠はセラミックより安く銀歯より見た目が良くなる治療法として注目を集めています。
保険適用のむし歯治療といえば以前は銀歯の治療が一般的でした。保険が適用されるため比較的負担をかけずに治療ができ、街中でも銀歯が見える方を見かけることも多いのではないでしょうか。 銀歯の治療には主に3種類で、インレーと呼ばれる小さなむし歯に対する部分治療、比較的侵食箇所が大きく目立ってしまうむし歯に被せ物をするクラウン治療、むし歯になった歯を抜きその両側の歯を支柱にしたブリッジ治療があります。銀歯は耐久性があり元の歯の形を再現しやすいため、装着直後でも噛み合わせに違和感に気づきにくいメリットがあります。 その一方で、銀歯は口を開いた時に光って目立ちやすく、見た目が良い治療とは言えません。また、いくら耐久性があるからといっても永遠に使えるわけではなく、3年ほど経過すると少しずつ変形が進んでいきます。変形が進むと噛み合わせが悪くなるので、なんとなく体調が悪いと感じる不定愁訴なども引き起こすことがあります。さらに、変形した銀歯をそのまま放置すれば、歯と銀歯の見えない部分にむし歯が発生してしまう恐れもあります。
むし歯の進行が歯の内側深くまで到達している場合、根管治療が必要になります。
根管とは、歯の神経が通っている歯髄と呼ばれる歯の内部のことを指しており、むし歯が歯髄まで到達すると、痛みや顔の浮腫みが発生します。むし歯は自然に治癒することがないため、歯内部の感染が広がらないよう神経の状態を見ながら処置をおこないます。 歯の構造は、表面からエナメル質・象牙質・歯髄と分かれており、むし歯が歯髄まで到達している状態であれば、根管治療が必要になります。むし歯が歯髄まで到達しさらに進行すると、歯ぐきから外部に出ている歯冠と呼ばれる部分が消失してしまい、歯の根本だけが歯茎に残っているような状態になります。 根管治療としてまずおこなわれるのが抜髄と呼ばれる歯の神経を抜く治療です。炎症や感染が広がっている歯髄の除去をおこない、患部を殺菌し、感染が再発しないよう薬剤を詰めて栓をし、最後に被せ物をして完了します。
根管治療としては神経を抜く抜髄治療が一般的ではありますが、歯の神経を抜くのにはデメリットがあるため慎重に決断をしなければなりません。歯の神経を抜くと、歯の寿命が短くなると言われています。歯の神経を抜くと感覚がなくなるので、歯の病気などの異変に気づきにくくなります。 また、感覚がなければ噛む力の加減が難しいので、力に耐えられず根が折れる恐れもあります。神経を抜くと歯の成長も止まりますので、歯茎の中で破損すれば、最終的に抜歯となります。実は、むし歯が進行しても神経を残す歯髄温存治療は昔からありました。 しかし、神経を残しながらの治療は難しく、推奨される治療法ではありませんでした。それでも技術の発達により、現代においてはかつてよりも歯髄温存治療の精度は年々上昇しています。治療方法としては、むし歯の進行状況によって間接覆髄・直接覆髄・部分断髄・全部断髄のいずれかでおこなわれます。
もちろん、たとえ技術が進化したとしても、根管治療の難易度が高いことに変わりありません。経験や技術そして器具に頼る治療になりますので、いくらプロとはいえ、治療がうまくいかないケースもあります。 そこで近年注目を集めているのが、マイクロスコープを使った根管治療です。マイクロスコープを使用すれば、症状がある部分を数十倍に拡大できるため、肉眼では見えない部分まで確認できるようになります。人の目では確認できないほどの微細な範囲まで処置ができるので、より精密な治療が可能になりました。 感覚に頼らないより確実性の高い治療、過去に治療を断念した症状に対する治療など、マイクロスコープは根管治療の可能性を広げる役割を果たしています。マイクロスコープの使用は無駄のない治療を可能にするため、痛みを最小限にできかつ治りも早く自分の歯をできるだけ長く使えるメリットがあります。